四百年の恋

予感

***


 翌月。


 連休直前、函館は今年も桜の季節を迎えた。


 圭介は社会科準備室の窓から、咲き始めた桜の木を眺めた。


 状況はいろいろ変わっても、桜は毎年変わらずこうして花をつけて……。


 ふと、壁に掲げられたジグソーパズルのパネルを見上げた。


 これらは全て、清水優雅が仕上げたもの。


 日々この準備室に出入りして、パズルに励んでいた姿が懐かしい。


 あの頃の優雅は、圭介の弟分と言ってもいいような存在だった。


 向こうも他の教師よりは、自分を信頼してくれていると自負していた。


 なのに。


 (あいつは何も言わないで、去っていってしまった)


 正確に言えば、挨拶が全くなかったわけではない。


 あの謝恩会の翌日、正午ジャストに圭介の携帯が鳴った。


 メール受信を告げる音だった。


 「清水……!」


 ディスプレイに「清水優雅」の名前を見た途端、はやる気持ちを抑えて本分を受信した。


 携帯メールのメッセージカード機能を利用している。


 「先生、今までありがとう。謝恩会すっぽかして挨拶もなしに旅立つことになっちゃって、ごめんね」


 とだけ書かれていた。
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