四百年の恋
 花里真姫、ちょうど二十歳。


 函館市内の大学に通う三年生。


 身長164センチの乙女……というよりもむしろ、立ち振る舞いは男同然。


 スカートは、冠婚葬祭時に着用するスーツくらい。


 高校時代は制服だったけど、制服のない大学では、日々ジーンズ姿でキャンパス内を闊歩していた。


 確かに圭介の言う通り、「姫」というキャラクターには程遠い気がしたが……。


 「それより、お前を姫と呼んだその男、いったい誰なんだろう」


 「一瞬だったから、もう覚えていないんだけど……。すごく美しかったことだけは覚えている」


 「他の花見客か?」


 「それが着物姿で。大河ドラマとかでよく見る、戦国時代の御曹司っぽい衣装」


 「戦国時代?」


 圭介はまた笑った。


 「お化けでも見たんじゃねえの」


 「違うわよ。だってこの缶ビール、拾って手渡してくれたもん」


 真姫は圭介に、缶ビールを指し示した。


 「この桜、ちょうど樹齢400年くらいなんだよね」


 圭介は桜の木を指差した。


 満月に照らされた、妖しいほどに美しく咲き誇る満開の桜の木を。
< 5 / 618 >

この作品をシェア

pagetop