四百年の恋
***


 大学に入って、最初の夏休み。


 美月姫は長期間、帰省することにした。


 「なんか札幌よりも涼しい気がする」


 JR函館駅の改札を抜け、駅前広場に出た。


 久しぶりの地元、函館。


 札幌から約250キロ、特急で四時間前後。


 これまでにもゴールデンウィークなどに幾度か短期間の帰省はしていたものの、長期にわたるのは大学進学後はじめて。


 久しぶりに会う友達との予定などを手帳でチェックしながら特急に揺られているうちに、函館に到着していた。


 学期末試験を終え、一週間の集中講義に出席し、夏休みの課題レポートのいくつかを片付けた八月上旬。


 真夏の暑い午後、美月姫は函館に降り立った。


 函館のほうが地図上では南方に位置しているのだけどにもかかわらず、都市化現象の影響か札幌のほうが暑く感じる。


 函館は海に面しているため涼しい風が舞い込んでくるし、霧も出るのでさほど暑くはならない。


 懐かしい函館。


 美月姫は生まれは札幌だけど、幼少期から函館で過ごしているので、今では函館が故郷といった感じだった。


 見慣れた街並み。


 行き交う人の群れ。


 何もかもが懐かしく思われる。
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