四百年の恋
 好きな人。


 (あんな風に誰かを愛せることなど、もう二度とない)


 真姫以外には愛せない。


 そう思い込んでいたのだけど。


 自分を真っすぐな瞳で見つめ、微笑む美月姫の視線が眩しかった。


 店の窓から注ぎ込む西日よりももっと。


 「……アイスティー追加で」


 美月姫の眩しい笑顔に耐え切れず、圭介は目を逸らし、偶然を装いたまたまそばを通りかかった店員に追加注文した。


 「……やはり、昔の恋人が忘れられないんですか」


 沈黙の末に、美月姫が口にした。


 「もう、昔のことだ」


 圭介は定番の嘘をついた。


 「でも、とてもロマンティックなことだと思います。恋愛経験豊富なほうが良しとされるこのご時勢の中、一人の女性を幾年にもわたって愛し続けることができるなんて」


 ……一年前の美月姫だったら。


 実りのない恋に何年も追いすがるなんて、バカらしいし時間の無駄だと斬って捨てていただろう。


 それが今。


 「私も一途に、想い想われたいな……」


 全く逆なことを言っている。
< 512 / 618 >

この作品をシェア

pagetop