四百年の恋
 「だけどな、大村」


 圭介が美月姫の淡い憧れに釘を刺した。


 「過去の思い出にすがるのは、美しいことかもしれないけれど。いつまでも過去に囚われ続けているうちに、現在の大切なものを見逃してしまうかもしれないんだぞ」


 「現在の、大切なもの?」


 「そう。あまりに度が過ぎると俺みたいに、いい年になっても一人ぼっちになってしまうぞ」


 「先生って、結婚願望あるんですか?」


 「今さら是が非でも相手を探そうって気はないし、一人は気楽だしいいんだけど、老後を考えると不安もあるのも事実だ」


 「老後?」


 「そうだな。果たして65歳になる頃に、きちんと年金もらえるのかも心配だし、社会全体が……」


 そこから話が脱線して、高齢化社会に関する問題を、圭介はつい熱く語り始めた。


 美月姫は黙って、時折相槌を打ちながら聞いていたのだが……。


 「あ、ごめん。つい授業中モードで」


 退屈させてしまったかと思い、圭介は恐縮した。


 「ふふ。高校時代に戻った気分でした」


 美月姫はにこっと笑って、圭介に応えた。
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