四百年の恋
 「な、何なの。気安く呼び捨てにしないで」


 いつもは「花里」と名字で呼ばれているのに、今日は「真姫」といきなり呼び捨て。


 異様な雰囲気を感じて、真姫はそのまま無視をして箱を運ぼうと背を向けたのだけど。


 「あいつならいいのか」


 圭介は肩を掴んだまま、真姫に問う。


 「あいつって誰?」


 背を向けたまま真姫は答えた。


 「とぼけるな。あいつには呼び捨てにさせておいて、俺ならだめなのかよ」


 「何言ってるの」


 それ以上の弁明の機会を与えず。


 圭介は真姫を強い力で引き寄せ、抱きしめた。


 その衝撃で、真姫の手からシャトルの箱が滑り落ちる。


 「何をするの!」


 「真姫」


 「何なのいったい……」


 きつくきつく、腕の中に抱え込まれた。


 ボディソープの残り香が満ちる。


 ……バドミントンを長く続けている彼の両腕は、かなり太さが違う。


 利き手である右腕の方が、左手の倍と言っては大袈裟だけど1.5倍くらい太かった。


 夏場に半袖になると、それは非常に際立った。


 「右半身と左半身で別人みたい」


 ……太さを比べたりして、いつもからかっていたその両腕。


 それらが今、真姫を強く捕らえている。


 そして、


 「お前が好きだ」


 秘められた想いが、白日の下に晒される。
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