四百年の恋
 「……楽しかったです」


 運転体験も一段落した夕暮れ。


 美月姫と圭介は、立待岬(たちまちみさき)に海を見に来ていた。


 「ここ、車がないと案外来づらいんですよね」


 岬に至る途中に、与謝野鉄幹(よさのてっかん)・晶子(あきこ)夫妻の歌碑を見つけ、美月姫は携帯で撮影していた。


 ゆるやかな遊歩道を進むと、やがて岬の展望スペース。


 「下北(しもきた)半島も見えますね」


 晴れていて見晴らしがよく、対岸の青森県、下北半島もぼんやりと確認できた。


 西側には函館山が。


 斜め後方には函館市街がよく見える。


 すぐ先には、海へと突き刺さる絶壁が……。


 「昼間来ると全然そんな雰囲気じゃないんですが、ここって自殺の名所なんですよね」


 明るい表情で美月姫が口にした。


 「らしいな。夜はお化けが出るらしいぞ」


 「心霊スポットですか」


 美月姫は微笑みながらこう誘いかけた。


 「先生と一緒なら心強いから、今度夜も来てみたいです」
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