四百年の恋
 「え……?」


 圭介の気持ちに全く気付いていなかった真姫は、想定外の事態に混乱する。


 「これまでずっと、毎日バカやってるのが楽しくて。そんな関係を壊したくなかったから、気持ちを隠していた。だけどあいつが現れてから、お前は……」


 「あいつ、って……」


 当然福山のことだ。


 真姫は混乱した思考を正そうと必死だった。


 「そして自分の気持ちに気がついたんだ。あいつになどお前を渡したくはない。あいつにも。他の誰にも……」


 そう告げてから、圭介は意を決したように真姫の唇を塞ごうとする。


 「こんな所で……嫌! 誰か来るのに」


 「みんな帰ったんだろ?」


 「……」


 「真姫、好きだ……」


 さらに強く抱きしめられる。


 福山との時は、甘美さやもの悲しさなど、様々な感情にとらわれたのだけど。


 今はただ、息苦しさしか感じない……。


 「離して!」


 隙を見て圭介を突き飛ばし、真姫は逃れようとドアに向かって走る。


 だけどすぐに手首を掴まれ、そのまま今度は床に押し倒された。


 その際に真姫の腕が机の上のプリントの山に引っかかり、辺りに紙が散乱した。
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