四百年の恋
 「離さないと、人を呼ぶから!」


 「誰呼ぶって言うんだよ?」


 「……」

 辺りは無人。


 周辺の研究室どころか、この階全体にもおそらくもう誰もいない。


 叫んでも誰も来やしない。


 「あいつとはもう……やったのか」


 顔を近づけて、圭介は真姫に訊いてきた。


 「関係ないでしょう……」


 顔を背けたまま、吐き捨てるように発せられた……真姫のその言葉。


 圭介はそれを、是認の印とみなした。


 「そっか……。あいつとはもう……」


 圭介の感情に火がついた。


 ブラウスのボタンを一つ一つ外していくのも面倒で、襟元から思いっ切り切り裂いた。


 「やめて……!」


 いつもとは別人のような、男の恐ろしい本性。


 それに恐怖を感じた真姫は、最後の抵抗を試みる。


 服を引き裂く際に圭介の片手が離れた隙に、思い切り突き飛ばして魔の手を逃れ、ドアまで駆け寄った。


 電気が消されたままの研究室はもう暗くて、辺りがよく見えなかったものの必死でドアノブを回す。


 「待てよ」


 圭介の腕が伸びるより一瞬早く、真姫は廊下に飛び出した。


 必死で逃れようとするが、恐怖のあまり足がもつれて思うように走ることができない。


 結局廊下の先にある、階段の手前で再び捕まってしまう。
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