四百年の恋
 廊下は行き止まりとなっており、右側には一階まで吹き抜けになっている大きな階段がある。


 左側は施錠された、別の研究室。


 行き止まりの手前で圭介に捕まえられた真姫はそのまま壁へと押し付けられ、逃げ場を失った。


 廊下の薄暗い電灯と。


 階段の上の窓から差し込むわずかな外の光がのみ。


 (私、これから……)


 真姫は恐怖で硬直していた。


 (このまま私、吉野くんと……?)


 ほんの先ほどまで、福山との甘い未来を思い描いていた。


 こんな事態予想もしていなかったし、この期に及んでも予想すらできないことなはずなのに。


 壁に押し付けられ、身動きが取れない。


 「真姫、俺のものになってくれ」


 好きならば、なぜこんなことをするの?


 その一言すら投げかけられない。


 何もできずにいるうちに、圭介は真姫の体を求め始めた。


 徐々にあらわになる肌。


 彼の手が大腿部に触れた時、真姫は完全にあきらめる前に、最後の救いを求めた。


 (助けて……!)


 暗闇に手を伸ばす。


 その先に思い浮かぶのは。


 「冬悟(とうご)さま……!」


 真姫の口から、思いもしない言葉が発せられた。
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