四百年の恋
 「先生……」


 また呼んでみては頬が紅く染まる。


 初体験ではないとはいえ、体を重ねるまでの手順を振り返ると、やはり緊張する。


 他の男の人は、どんな抱き方をするのか。


 優しく求めてくれるのだろうか。


 (キス……してくれるのかな)


 美月姫はファーストキスがまだだった。


 キスより先に、処女をなくしてしまっていた。


 それがトラウマになっていた。


 (あのつらい思い出を全て忘れられるくらいに、激しいキスをしてほしい。強く抱いてほしい)


 美月姫は切実に願った。


 「めちゃくちゃにされてもいい……」


 ふと言葉として漏れてしまった本音。


 別の部屋の親たちにはまさか聞こえていないだろうけど、恥ずかしくなって美月姫はタオルケットを頭からかぶった。


 そしていつしか、眠ってしまっていた。


 甘い夢に抱かれながら。


 この夜、美月姫の行く末が大きく変化を遂げる事態が起きていることを知る由もなく。
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