四百年の恋
 「姫は、私の側室として迎え入れる。冬悟は我が娘と結婚して、次期当主になるのだ」


 冬雅がそう宣言した時。


 「いやです! わたくしは冬悟さまの妻となるべく、ここに参りましたのに」


 月光姫は恐れることなく、殿である冬雅に異議を申し立てた。


 「側室の地位では、不満か?」


 「いいえ。地位など私には何の意味も持ちません。私はただ、冬悟さまと共に生きるために……」


 冬雅は公衆の面前で、恥をかかされる結果となった。


 もう後には引けない。


 権力を駆使して、当主としての権限を行使してまでも、姫を奪い取らなければ面目が立たなくなってしまった。


 「当主である私の命令だ! 冬悟、下がれ」


 冬雅は周囲に仕える小姓たちに、冬悟を宴の席から追い出すように命じた。


 「殿! 姫は私のものです。どうか……」


 冬悟の声がかき消されていく。


 すると残された月光姫が、冬雅にこう言い放った。


 「権力があれば、何をしても許されるとお思いですか? 冬悟さまと引き裂かれるなど、絶対に嫌です。どうしてもと申すのであれば、私は喉をかき切って死にます!」


 月光姫は懐から小刀を取り出し、その白い喉元に刃を付けた。


 殿である冬雅の前で刃物をちらつかせたことに、周囲の家臣たちは驚き戸惑っている。


 だが当の冬雅は、そんな姫の激情にますます気持ちをかき立てられる。


 「そなたが死ぬのは、ある意味勝手だ。だが遺される者のことを考えたことはあるか?」


 権力を笠に着て、姫を脅す。


 「卑怯……です」


 姫の手から小刀がこぼれ落ちた。
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