四百年の恋
 「殿、私は今回の騒動の責任を取りまして、辞職させていただきます」


 突然赤江が辞職を申し入れた。


 「なぜこのような時に」


 驚く冬雅に、赤江はこう答えた。


 「殿の留守中にこのような謀反が起きてしまいました。これも私の力不足が原因です。この責任を取りまして、私は職を辞して田舎に引きこもらせていただきます」


 「……」


 冬雅は赤江の真意を察した。


 冬悟を陥れたのは赤江だから。


 裁判の際に冬悟が無実を主張して、赤江に詰め寄るだろう。


 当然背後に冬雅の関与も疑われてしまう。


 (それを避けるために、赤江はしばし身を隠す気だ……)


 それが分かっていながら冬雅は、赤江の申し出を受け入れた。


 もう後には引けない……。


 そして判決が下される。


 「全ては……。天と赤江だけが存じております」


 「そなたにも言い分があるのなら、一応聞いてやろう」


 「重ねて申し上げますが、真実を知るのは天と赤江のみです」


 その時家臣の安藤が、再審査を願い出た。


 「今しばらく、再度冬悟さまへの尋問をお続けくださいませ。赤江は殿の関心を得るために、冬悟さまを陥れようと」


 「その言い方はまるで、私が内心喜んでいるかのような言い方だな」


 「いえ、そんな」


 言い訳も弁明もなぜかしない冬悟。


 冬雅は弟に死罪を命ずるしかなかった。


 福山家および領内の秩序を守るため。


 自らの権力保持のため。


 そして・月光姫を手に入れるため。
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