四百年の恋
 姫を抱きしめるその温もりまでも伝わってくる。


 「こうなることは、前世からの定めだった。そんな気がする」


 灯りの消えた寝室。


 乱れた床。


 はだけた寝間着。


 抵抗した際に姫がちぎった赤い花びらが、その白い肌の上に散らばっている。


 ようやく手に入れた愛しい姫から、一瞬たりとも離れるのが惜しくて。


 冬雅は姫を腕の中に強く抱きしめた。


 心はなくてもいいと思っていた。


 その体さえ、今この腕の中に独占できるのならば。


 そしてそれは、権力を駆使すればいともたやすくかなえられたのだ。


 だが意識は程なくして……姫との別れの場面へ。


 「月、そんな所で何をしておる。危ないからこちらに戻れ」


 「お許しください……」


 白い花が揺れる中、月光姫は一歩、前へと足を踏み出した。


 その先は、海へと突き刺さった急崖……。


 「姫ー!」


 花びらは散っていった。
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