四百年の恋
 「それは何だ」


 「これが波にかき消されなければ、二人の愛は成就するんです」


 「え……」


 ついに美月姫が、「愛」という言葉を口にした。


 一瞬沈黙。


 切実な瞳。


 美月姫がこれから何を告げようとしているのか、手に取るように圭介には分かる。


 「先生! 私……!」


 「待て」


 美月姫を制止した。


 「……お前に言っておかなければならないことがある」


 「何……ですか……?」


 美月姫はこれから与えられるであろう言葉がずっと望んできたものではなさそうなことを、圭介の表情を覗き込んで察したようだ。


 「……」


 不安げに圭介の言葉を待っていた。


 「悪いけど、旅行には行けない」


 「え、もう予約入れちゃったんじゃないですか。何か急用でも?」


 「予約はまだ入れていない」


 「それならよかった。じゃ先生の都合のいい時に、延期して……」


 「無理だ」


 圭介は静かに遮った。


 「お前と二人で、旅行に行くわけにはいかない」


 その時波音が、高まったような気がした。
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