四百年の恋
 「……そうです。吉野さんの言う通りです」


 急に美月姫は、圭介の言葉を肯定した。


 「一方的に置き去りにされ、取り残されて寂しかった。だから次の恋では幸せになろうと誓った。そして吉野さんを好きになった……」


 「それは、」


 「吉野さん、私を抱いて」


 圭介の言葉を待たず、美月姫は再度腕に力を込めて、圭介に抱きついた。


 「何もかも忘れられるくらいに、強く抱いて。めちゃめちゃにされてもいい」


 愛しい女が、ただひたすらに自分を求めている。


 何もしがらみがないのならば、この腕に抱きしめて眠りたいのに……。


 圭介はふとそう願った。


 「吉野さん、お願い……」


 美月姫は腕を首に巻きつけてきた。


 圭介が拒まなければ、ここで押し倒されそうな雰囲気だ。


 「やめなさい、こんな所で」


 今のところ周囲に人の気配はない。


 だけどいつ誰が歩いてくるか分からない。


 圭介は美月姫を離そうとした。


 「それでは、車の中でならいいのですか?」


 美月姫は駐車場をちらっと見た。


 季節はずれの夕暮れの海は、駐車場も無人で……。


 「今すぐ……私を抱いてください」


 身を寄せながら求めてくる。
< 604 / 618 >

この作品をシェア

pagetop