四百年の恋
 ……情報によると圭介は、命に別状はないし、即入院ということでもなかったようだ。


 真姫はほっとしたのだけど、圭介は生き地獄を与えられたようだ。


 左膝前十字靭帯損傷(ひだりひざぜんじゅうじじんたいそんしょう)。


 特にスポーツをしていない真姫には、ピンと来ないケガの名前だった。


 骨折とかアキレス腱断裂とかじゃなくてよかった、程度にしか考えてなかったのだけど。


 「そんな生易しいもんじゃないよ……」


 麻美が教えてくれた。


 「よくサッカー選手とかがするケガなんだけど、膝を守っている筋が断裂しちゃったんだよ」


 「筋?」


 「そう。膝の半月盤や関節を守っている、大事な筋。膝の辺りは仕組みが複雑だから、手術には専門医による高等技術が必要らしいよ」


 「え……」


 「全治半年とか、九ヶ月……一年近くはかかると思う」


 「そんな大変なことに……!」


 真姫は絶句した。


 半年にしろ、九ヶ月にしろ。


 圭介は今年はもう、競技への復帰は絶望的だ。


 今年はまだ二つ大きな大会を残していて、その結果次第では実業団への入団も現実化しそうな雰囲気だったのだ。


 なのにこの期に及んで、戦線離脱。


 来季も春のリーグ戦にも間に合わないだろうし、念願のインカレ出場も霧散となるだろう。


 当然、実業団の話も白紙。


 「そんな……」


 真姫は引き起こされた事態の大きさに、恐ろしさを感じた。


 あの時自分を強引に抱こうとした男が、その直後に将来を台無しにするような大ケガを。
< 67 / 618 >

この作品をシェア

pagetop