四百年の恋
***


 翌日。


 圭介が大学に姿を見せた。


 即手術とはならず、MRI検査などをして計画を立ててから、札幌の専門医の下で手術となる予定らしい。


 寝ている必要もないし、適度に日常生活していたほうが筋力減退を防げるとのことで。手術まではできる範囲で大学に姿を現すことにしたようだ。


 ……彼が教室に入ってきた途端、誰しもがそちらを振り返った。


 学科の三年生の多くが履修している、地域史1の授業。


 関係者が多く居合わせていた。


 久しぶりに見る圭介は、外見は以前と変わらず。


 ギブスをしたりしているわけではないが……左足を引きずっていた。


 華やかな外見で、180近い長身。


 以前から目立つ男だった。


 筋肉質な割には痩せていたけれど、ケガのショックで食欲がないようで、さらに痩せていた。


 「……」


 隠してはいるものの、足を引きずっているのは誰の目にも判った。


 インカレ出場に、実業団入り。


 手の届くところまで来ていた彼の夢が、全て失われてしまったことを皆悟って、言葉を失っていた。


 「吉野、」


 圭介は福山の前に到達した。


 「災難だったな。何て言っていいか」


 ぷいっ。


 福山の言葉を無視して、圭介はそのまま通り過ぎて、後方の席へと座った。


 もしも福山が抱きとめていなければ、もっとひどいケガをしていたばかりか、命さえ失っていたかもしれない。


 しかし圭介は、福山に礼を述べる気分にはなれなかった。


 そして周囲の誰も慰めの言葉が見つからず、教室は教授が入ってくるまでの間、沈黙に包まれていた。
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