四百年の恋
***


 「あっ、吉野くん」


 圭介が教室に姿を現した途端、同じクラスのオタク男が呼び止めた。


 「待っていたんですよ。例の発表の件で、話したいことがあって」


 真姫は福山と発表がペアだったのと同様、圭介はこのオタク男とペアだったのだ。


 「すまん。今急いでいるんだ。……真姫はもう登校しているか?」


 「いえ、まだ見てませんが。そうそう、僕がこれからしようとしている話は、その花里さんにも若干関係しているんで」


 (真姫……)


 圭介はあたりを見回した。


 「吉野くんはそれどころじゃないと思って、僕が発表内容の企画も調べものも、一人でやっておいたんですよ」


 「おう、それは面倒かけたな」


 礼を述べてはいるが、圭介は上の空だった。


 「僕は個人的に、福山家の第三代・福山冬雅(ふゆまさ)を好きなんですよ。だから冬雅が行なった、領民救済事業についてまとめてみたんです」


 冬雅治世下の北海道は冷害続きで、自然災害にも多く見舞われたという。


 当時はまだ北海道では米作が不可能で、経済状態も不安定だった。


 そんな領国を上手に治め、その後の発展の礎を築いたといわれている、福山冬雅。


 だが……。
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