四百年の恋
 ……。


 真姫と圭介の賑やかな騒ぎ声も、やがて春の風の中に消えていった。


 あとに残されたのは、風に揺れる桜の花と枝。


 静かに辺りを照らす、月の光。


 そして……。


 (やっと……、巡り会えた)


 桜の幹の内部から浮き出るように、人影が姿を現した。


 徐々に輪郭を整え……。


 先ほどの、戦国時代の武家の御曹司風の装束の人物。


 (四百年の長きにわたり、この桜の木の内部に魂を閉じ込められ、身動きもとれず……。ただじっと待ち続けるしか手段がなかった)


 彼の姿が、桜から一瞬分離した。


 (気の狂いそうな長い時を越えて、ようやく姫と巡り会えた)


 彼は切ないまなざしで、二人の去っていった方角を見つめ続けた。


 「月光姫(げっこうき)……」


 愛しい人の名前を口にした途端、その姿は月の光に溶けるかのように。


 再び桜の木と同化してしまった。
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