四百年の恋
 「こっ、これは……。救急車呼んだほうが」


 オタク男は混乱して、慌てふためいている。


 福山は瀕死の重態に見えた。


 「化け物め、消えてしまえ! もう真姫の前に、姿を現すな!」


 圭介は福山にとどめを刺そうと近づき、十字架を押し付けようとした。


 すると……。


 「見て!」


 まず静香が気が付いた。


 福山の体が色彩を失い、徐々に分離しているように見えたのだった。


 「……」


 真姫は言葉を失っていた。


 胸をときめかせていた人が目の前で腐り始め、代わって姿を現したのは……。


 「あーっ! あなたは誰ですか!」


 オタク男が叫び声を上げた。


 朽ち果てた福山の体と入れ替わるかのように現れたのは、時代劇に出てくるような御曹司。


 福山と瓜二つの。


 彼は苦痛に顔をゆがませながら立ち上がり、真姫に近づいた。


 「あなたは……!」


 真姫は恐怖に耐えながら、彼をじっと見つめた。


 どこかで出会ったことがあると思った。


 思い出した。


 今年の春、松前の公園で花見をしていた時に、転がっていった缶ビール。


 (桜の木の根元で缶ビールを拾い上げ、私に手渡してくれた人……!)
< 85 / 618 >

この作品をシェア

pagetop