四百年の恋
 「そんな。私は何も知らない……」


 ~生まれ変わって記憶をなくしたお前は、何も覚えていない。でも私には判る。お前は月光姫だ。かつて私が愛した人……~


 そう告げて冬悟は、真姫の手を取った。


 ~今でも想いは変わらない……~


 優しい瞳。


 懐かしいまなざし。


 戸惑いを越えて、その想いを受け入れたくなってしまうような。


 ~兄にお前を奪われ、死に追いやられ……。400年間ずっと、孤独と闇の中で再会の日を待ち続けていた~


 400年間の孤独。


 真姫には想像もつかない長さだった。


 ~姫、愛している~


 冬悟が真姫を抱き寄せようと、その手を引こうとした瞬間。


 「真姫、離れろ!」


 我に返った圭介が、真姫を冬悟から強引に引き離した。


 「お前はこの世の人間じゃないんだろ? さっさとあの世に行け! 真姫を引き込むな」


 再度冬悟に十字架を見せつけた。


 十字架が近づくたびに、冬悟の体は透明になっていく。


 福山冬悟の体が透明になるのと比例して、先ほどの朽ちかけた「福山龍之介」の姿が再び色を濃くした。


 ~姫、私を愛していると言ってくれ~


 おそらくそれが、最後の言葉。


 溶けゆく体の奥から、冬悟は声を絞り出した。


 そして真姫へと、手を差し伸べる。


 腐乱した腕を。
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