四百年の恋
 「……またお前は、そんなつまらぬことを申しているのか!」


 夕食時、月姫は父に叱られていた。


 姫とその両親、三人で夕食を取る習慣だった。


 年の離れた兄は、すでに結婚して別の居城を構えて独立していた。


 家督は兄が継ぐことが決まっているため、姫は一人娘として自由気ままな毎日をこれまで送ることができていたのだが……。


 「今さら取り消しはできないのだぞ! 先方にどれだけ迷惑がかかるか分かっているのか?」


 父はかなり怒っている。


 今になって姫が、やっぱり福山城になんて行きたくない、って言い出したから。


 「姫、もうすでに福山城下の義姉上も、姫を迎える準備をしているのですよ。今さら取りやめとなっては、あちらにも恥をかかせることになるのですよ」


 父の姉、姫からすると叔母にあたる女性が福山家の重臣に嫁いでいた。


 その叔母の夫である叔父が、間もなく福山城にて催される「花見の宴」の進行役を任されていたのだ。


 城の一年最大の行事の進行役に任命され、叔父は張り切っていた。


 料理の準備や、宴の進行予定。


 企画運営に招待客の手配。


 そして宴を彩るため、女性を多く配置しようと、一族郎党に招集をかけた。


 その段階で、姫も呼び出しを食らったのだが。


 ……それは表向きの理由。
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