白雪姫の願いごと
前篇◆グレーテルの帰還
◇図書館の妖精
図書室で本を読んでいた春川愛理《ハルカワ アイリ》がふと顔を上げると、ちょうど時計の針が午後6時を過ぎたところだった。
「……え、嘘っ!?」
それを見た愛理はみるみるうちに顔を青ざめさせると、ポケットに入れておいた一枚の紙を勢いよく取り出した。
バッと開いたソレは、近所のスーパーのチラシである。紙面には所狭しと『投げ売り御免!』や『限定値下げ!』などの文字が踊っており、その中心には
『肉類全品半額セール!17時より10分間限定開催!』
と赤い文字でデカデカと書いてある。
「…………」
愛理は恐る恐る顔を上げると、もう一度じっくりと時計を見つめた。しかし当然ながら、どれだけ見つめても時間は元には戻らない。
「あーあ、やっちゃったよぉ……!」
その事実を認識した瞬間、私は思いっきり頭を抱えてしまった。
――つまり自分は、買い逃したのだ。せっかくの半額セールを。
貴重な貴重な、タンパク源を。
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