白雪姫の願いごと
俺にとって春川愛理という存在は、探偵という仕事に関しての優秀な相棒であり、最も信用している相手であり、大切な同居人だ。それ以上でもそれ以下でもない。
というか、そう思い込んでいないとやっていられない。
――本当は、自分でも分かっているのだ。彼女へ向ける感情は、家族へ向けるものとはかけ離れていることくらい。
だが、俺は意地でもその感情を認めるつもりはない。少なくとも2年後、彼女が大学を卒業するまでは。
(じゃないと、俺は愛理を今以上に離したくなくなる…………!)
今だって俺は、彼女を『家族の一員』だと思い込むことでなんとか自分の独占欲と戦っているのだ。
それなのに、彼女の事を一人の『女』として見てしまえばどうなるか。
――そんなの決まっている。俺は彼女を徹底的に甘やかすだろう。それこそ、俺の存在無しでは生きられないようにするまでは離せない。
今以上に俺を頼って欲しい、俺だけしか見えないようにしたいという本能と、彼女を縛り付けてはいけないという理性が俺の中でしばしせめぎ合う。
「……はぁ」
そして、どうにか理性を優先させることができた俺は、細く長い息を吐き出すと意を決して立ち上がった。
そのまま安らかな寝息を立てる彼女に近づくと、自分に言い聞かせるようにひとりごちる。