白雪姫の願いごと




対する雅彦は、一度俯くと静かな声で呟いた。



「火事……。そういえば新聞の地方記事に、『長女以外全員焼死』と書かれていた事件があったが、もしかして……」


「はい、恐らくそうです。私は当時、呆然とすごしていたので新聞などではチェックしていませんでしたが……」


「そうか、それは大変だったな。……今はどこに住んでいるんだ?」


「駅前のビジネスホテルへ。貴重品類は耐火製の金庫に入っていてすべて無事だったのが幸いしました」


「そうか。ちなみにこれは答えなくてもいいが、火災の原因はなんだった?」


「なんでも、キッチンの油が燃え移ったとか……」


「そうか。……大変だったな」



雅彦はそれだけ呟くと、そのまま姿勢を正した。



「話が脱線してしまったな、すまない。本題に戻ろう。

……では、今回の堀川さんの依頼を受けようと思う。費用等の契約書類に関してはこの後から説明するが、それでも良いか?」


「え、は、はい!……というか、本当にこの依頼を受けてもらえるんですか?全然情報が無いんですよ!?」



今までの探偵事務所とは全く違う反応に驚いて思わず確認すると、探偵は何をいまさら、と唇を尖らせた。



「最初に言っただろう、全力を尽くすと。確実に見つけ出せるかどうかはまだ未知数だが、だからといって捜さずに最初から諦めて探偵なんてやってられるか」



心外そうな彼の言葉は、私に一つの希望をもたらした。


先ほども驚かされたが、彼は相当な洞察力と推察力の持ち主のようだ。


彼ならばもしかすると、父親の居場所を本当に見つけだすことができるかもしれない。


そうすれば、私は――。



「あ、あのっ、よろしくお願いします!」



私はそう言って立ち上がると、彼に深く頭を下げる。


こうして、『東宮寺私立探偵事務所』に新たな依頼が舞い込むことになったのだ。




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