白雪姫の願いごと
私は小さく深呼吸をすると、静かにマサ君を見つめた。
「……あのね、マサ君。私、マサ君に謝らなきゃいけない事があるの」
「なんだ」
「う、じ、実は……今日、ちょぉっと本を読むのに集中しすぎちゃってね?それで、お肉半額セールのことすっかり忘れちゃって……」
「……つまり?」
「ごっ……ごめんなさい!!買いだめしておくはずだったウインナーもベーコンも豚肉も鶏肉も、予算的に今まで通りは食べられなくなっちゃいました!ついでに今のままの食生活だと月末が大ピンチです!最後はもやし生活ですっ!!本当にごめんなさぃぃいいい!」
私は一息にそう言い切ると、その場で思いっきり頭を下げた。
――予想以上に今月のお仕事が少なかったとはいえ、それを見越して食費などの予算を管理するのも私の仕事だ。
故に、食費がピンチになっちゃったのも必然的に私の責任となる。
(うぅ、食べ盛りの成人男性であるマサ君が食べ物関係でひもじい思いをしないように気を付けてたんだけどなぁ……。反省しよう)
私が落ち込んでいると、不意にポンと頭に温かい手が乗せられた。
驚いて顔を上げると、片手で肉を焼いたまま私の頭を不器用に撫でるマサ君の姿。
彼はそのままこちらをチラリと見つめると、「見てみろ」と呟いて冷蔵庫の方を指さした。
「……?」
首を傾げた私が冷蔵庫の扉を開くと――そこには、所狭しと大量の肉製品がおいてあった。
そしてその全てに、『半額』と書かれたシールが貼られている。
「これ、もしかして……!」
思わず振り向けば、微かに目を細めて笑うマサ君。
――つまりマサ君は、私が行き損ねた肉類半額セールに行ってきてくれたのだ。
人ごみがなによりも嫌いな人なのに。自分の買い物にすら行きたがらないような人なのに。