勝手に百人一首
反射的に、あたしは下を見る。





そこには、ちょうど真下の階のベランダから飛び出した、夜闇に浮かび上がる顔。




手すりに背中をつけて、仰向けになってあたしを見上げている男だった。






「――――だっ、誰!?」






驚きのあまり、あたしの声は思いっきり裏返ってしまった。




男は顔をしかめ、右手の人差し指と中指の間に挟んでいた煙草をすーっと吸った。




その煙を上に向かって(つまりあたしに向かって)ふーっと吐き出して、一言。






「…………1405号室に住んでる佐藤だが、何か?」





「………いえ、別になにも」






男―――佐藤はもう一度、煙草に口をつけた。





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