勝手に百人一首
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「―――レイモンド、どうした。
顔色が優れないようだが」
晩餐会を終えて邸に戻ったとき、明るい灯火のもとで息子のレイモンドの表情を見て、父のオルガルは驚いたように言った。
十八とは思えないほどいつも冷静沈着で穏やかなレイモンドが、今は青ざめた顔で、どこか落ち着かなげな所作で長椅子に腰かけ、髪を掻き乱していた。
「………何でもございません。
ただ、少し………一人にしていただけませんか」
珍しいこともあるものだ、とオルガルは内心首を傾げた。
そういえば、夜会のときには貴族たちの間をいつも上手く立ち回るレイモンドが、今日の晩餐会では、壁際に一人黙って佇んでいた。
体調でも悪いのか、と思い、オルガルは「大事をとれよ」と告げて、自室へと引き上げた。