彩りを吐いて君はゆく

「好きです」


放課後の美術室で、二人きり。蜜柑色の夕陽が先輩の横顔を淡く暈しては影を落とす様子があまりに美しくて、私はつい口をすべらせた。

"先輩の描く絵が"好きです。慌ててそう言い直そうとしたけれど、先輩の唇がそれを遮って、私の唇をそっと塞いだ。

美術室いっぱいに充満したオレンジ。先輩の、少し癖のある栗色の髪。窓の向こうを通り過ぎる鳥が落とす影。触れた唇の、赤。


「僕も好きだよ」


その微笑みは、やっぱりとても鮮やかで、私の心臓をいっぱいにした。パレットに収まりきらないほどの色彩で、私の知らない名前の色をこれでもかとぶちまけて、先輩が、私の心臓をいっぱいにした。


その日から、私は白い絵を描くことが出来なくなった。