彩りを吐いて君はゆく
季節はめぐって、また春が来る。
私も高校を卒業して、それなりに大学生活にも慣れて、そうしてこのまま、ゆっくり大人になるのだろう。
淡い初恋の残り香なんて、きっといつかすっかり忘れて、またちがう誰かと、私も彼も、幸せになれる日が来るのかもしれない。
真っ白なキャンバスと二人きりだった私に、彼がたくさん色をくれた。赤も青も黄色も緑も、全部、彼が教えてくれた。
彼と出会って、私は白を手放した。彼の色を奪って、居場所を奪って、さようならをして、私は彼がくれた彩りも、ぬくもりもすべて、失くしてしまった。
だけど、願わくばいつかその失くした色を、誰かが彼に、また与えてくれたらいい。私にはきっと出来ないことだから、誰かが彼に、手を繋いで、抱きしめて、キスをして、そうして色を分けてくれたらいい。
彼が私にそうしてくれたように、私にとって彼がその全てであったように。
夕陽があまりにオレンジで、目に染みる。
いつか彼がいっぱいにしていた心臓を、今この瞬間、少しでいいから染めてみせてよと、夕焼けを吸い込んで、ちいさく吐いた。
【彩りを吐いて君はゆく】
(あなたが奪っていった無色を、懐かしく思う私をどうか、誰も許さないでほしい)