How much?!


駅前にあるベンチに腰掛け、足首を擦る。


救急車を呼んで、自宅近くの病院に搬送して貰うってのは?

………乗車拒否されるのがオチだよ。


乾いた空気、冷たい風。

今にも心が折れそうだよ。


ポケットからスマホを取り出し、再びアドレス帳に視線を落とした。


自宅から結構な距離がある。

時間もかなり遅い。

連絡がついたとしても、迎えに来てくれるとは限らない。


完全に弱り切った私は、悴む指先で『あ行』から眺め始めた、その時。


―――――麻生大和


すぐさま目についた名前。


別に助けて貰いたい訳じゃない。

こんな姿を見せたら、何を言われるか……。

どうせ、底なしの毒を吐かれるに違いない。

違いないんだけど…………。

彼なら、来てくれそうな気がする。

………何故かは、分からないけど。


志帆ちゃんが言ってた事が引っ掛かっているのもある。


『先輩の事が好きなのかも』


限りなくゼロに近いとは思うけど、それでも完全にゼロで無い限り……。

後で払う代償が大きいとしても、彼なら助けてくれそうな気がした。



私はスマホをじっと見つめ、深呼吸。

そして、意を決して彼に電話を掛けた。


すると―――――。


「はい、もしもし?」


3コールで彼が出た。

しかも、相変わらず男前の美声だ。


思わず笑みが零れ、久しぶりに彼と言葉を交わす。


「もしもし。…………早坂です」


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