How much?!
「おぅ、どうした?……何か、用か?」
「あの……」
「………ん」
「今、お仕事中ですか?」
一応、礼儀は弁えている。
彼は、休みもままならないチーフバイヤーなのだから。
「いや、もう自宅にいるけど」
「………そうですか」
自宅にいると聞いて、飛び上るほど嬉しい。
嬉しいけれど、いざ彼に言おうとすると言葉が出て来ない。
どうしよう。
今さらだけど、何て言おう。
暫しの間、沈黙が続いた。
すると――――。
「今、どこにいるんだ?」
「へ?」
「家か?」
「…………いえ、違います」
「どこ?…………会社?」
「……………いえ、会社でも無いです」
彼の言葉に涙が滲み始めた。
私から居場所を伝えようとしなくても、彼が誘導尋問のように聞き出してくれる。
何故だろう?
テレパシー??
弱り切った心にじーんと響く。
「今から迎えに行くから、場所を教えて?」
「えっ?」
「事情はよく解らないけど、お前、泣きそうな声だぞ」
「…………ッ」
「で?………そこは何処なんだよ」
ちょっと苛ついた感じの声音も、彼が心配してくれたのだと思うと嬉しさが込み上げて来た。
殆ど会話らしい会話をしてないのに、私の変化に気付いた彼。
そんな彼の優しさが冷え切った心に沁み込んで来る。