How much?!
「中身、何?ケーキだよな?」
「あっ、はい。チョコだと会社の女の子から沢山頂くと思って、ベイクドチーズケーキにしました。日持ちするので、小腹が空いた時にでも召し上がって下さい」
一応、それなりに考えて用意した。
きっと本社の事務員だけでなく、各店の社員やパートさんからも貰うと予想して。
「ありがとな、後で戴くよ」
「………はい」
私の予想に反して、彼は優しい笑みを浮かべた。
身支度を済ませ、玄関で革靴を履く彼。
無意識に彼に靴ベラを差し出すと。
「お前、いい奥さんになりそうだな」
「へ?」
「フッ、何でもない。じゃあ、帰るな?今日はご馳走様」
「………いいえ、なんのお構いも出来ませんで」
不意に頭をポンポンと撫でられると、胸がきゅんと反応しちゃうじゃない。
物凄い至近距離でじっと見つめられると、どうしていいのか分からない。
思わず視線を逸らすと、
「おやすみ。ちゃんと鍵閉めて寝ろよ?」
「あっ、……はい」
ガチャッ―――――――
彼は颯爽と姿を消した。
玄関に不釣り合いの柑橘系の香りを残して。
張り詰めていた緊張から解放されたせか。
はたまたすべき事を終えた達成感からなのか。
とにかく肩の荷が下りたように感じて、フゥ~と一息吐きながら玄関の鍵を掛けると。
……あれ?
何か、忘れているような気がするんだけど?
あっ、鍵だ!!
私はすぐさま彼に渡す予定の合鍵を手にして、外へと飛び出した。