How much?!
息抜きをしようと思ったのに、息抜きどころじゃない!
この後の仕事に差支えが出そうだ。
俺は踵を返して会議室の隅に椅子を移動し、腰掛けた。
菓子メーカーが会釈しながら退席し、それと入れ替わるように一般食品のメーカーが準備の為に入室して来る。
「麻生チーフ、お世話になります!」
「ん、お世話様~」
会議室の机の上にそれぞれに商品を並べ、試食するモノがあるメーカーは試食の準備も始めている。
俺は腕組みをして目を閉じた。
今は勤務中だ。
仕事に専念しろ。
……そう何度も自分自身に言い聞かせて。
すると――――。
「あのっ………麻生さん」
「ッ?!」
目を開けなくても誰が話し掛けて来たのか分かる。
俺の心がトクンと反応する声音だ。
俺はゆっくりと瞼を開けると……。
目の前にPB(プライベートブランド:メーカーとタイアップして企画した独自ブランドの商品)のお茶を手にしている彼女がいた。
選定会で業者に配る用のお茶。
恐らく、彼女はそれを届けに来たのだろう。
「何か……用か?」
腕組みをしたまま素っ気なく返すと、
「お疲れ様です。一息入れて下さい」
彼女は手にしているペットボトルのお茶を差し出した。
俺は渋々それを受取って、彼女を一瞥した。
社内で彼女と会話する事さえ珍しい。
視界で彼女の姿を捉えただけで、今すぐハグしたいくらい胸が高鳴っているというのに……。
なのに、今は嬉しさよりも切なさと悔しさで押し潰されそうだ。