How much?!


「私はどこにも行かないから、安心して。決して、あなたを1人にしない。いつでも笑顔であなたの傍にいるから………だから、私を二度と手放さないでっ」



彼が結婚を急ぐ理由。

恐らく、不安で堪らなかったんだと思う。


手が届く距離にいても、帰らぬ人となった両親と重ねて……。


私がどこか遠くへ行ってしまわないように、1分1秒でも一緒に居たかったんだと思う。

そんな彼の想いを知らず、私は新居選びも式場選びも乗り気ではなかった。

今さらだけど、申し訳なくて。


はっきり言って貰えたら、もっと早くに解決したのかもしれない。

けれど、それは彼には酷過ぎる事だと思い知った。

言葉にするということが、どれ程のストレスを与えていたのかと。

今なら解る。

彼の瞳を見ただけで……。


きっと今、自分の不甲斐なさに心の中で溜息を吐いてるだろう。

だから、私はそんな彼にこう言うの―――。


「今すぐ、あなたのモノにしてよ。どこにも行けないように……」

「っ………」


女にここまで言わせて、何もしない訳にはいかないでしょ?


ゆっくり彼と視線を合わせると、はにかむ彼。

けれど、それも一瞬で。

腰に回る手がゆっくりと上昇し、背中を支えて。

もう片方の手が膝裏にしっかりと回された。


「止めるなら今だぞ」


最終警告と言わんばかりに真っ直ぐ射抜く眼差し。

その瞳は不安と緊張と、そして『男』の色を滲ませて……。


だから、私は無言のまま彼の首に抱きついた。


< 283 / 290 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop