How much?!
「私はどこにも行かないから、安心して。決して、あなたを1人にしない。いつでも笑顔であなたの傍にいるから………だから、私を二度と手放さないでっ」
彼が結婚を急ぐ理由。
恐らく、不安で堪らなかったんだと思う。
手が届く距離にいても、帰らぬ人となった両親と重ねて……。
私がどこか遠くへ行ってしまわないように、1分1秒でも一緒に居たかったんだと思う。
そんな彼の想いを知らず、私は新居選びも式場選びも乗り気ではなかった。
今さらだけど、申し訳なくて。
はっきり言って貰えたら、もっと早くに解決したのかもしれない。
けれど、それは彼には酷過ぎる事だと思い知った。
言葉にするということが、どれ程のストレスを与えていたのかと。
今なら解る。
彼の瞳を見ただけで……。
きっと今、自分の不甲斐なさに心の中で溜息を吐いてるだろう。
だから、私はそんな彼にこう言うの―――。
「今すぐ、あなたのモノにしてよ。どこにも行けないように……」
「っ………」
女にここまで言わせて、何もしない訳にはいかないでしょ?
ゆっくり彼と視線を合わせると、はにかむ彼。
けれど、それも一瞬で。
腰に回る手がゆっくりと上昇し、背中を支えて。
もう片方の手が膝裏にしっかりと回された。
「止めるなら今だぞ」
最終警告と言わんばかりに真っ直ぐ射抜く眼差し。
その瞳は不安と緊張と、そして『男』の色を滲ませて……。
だから、私は無言のまま彼の首に抱きついた。