How much?!
そこにいたのは紛れもなく、彼だった。
思わず、足が止まり見入ってしまうと……。
「えっ……?」
似非王子スマイルを振りまいている彼が、突然こちらへと視線を向けた。
そして、今にも抱きつかんばかりの女子社員の掻き分け、こちらへと歩み寄って来た。
そんな彼の行動に女子社員の鋭い視線が向けられる。
彼ではなく、彼を通り越した私へと……。
胸の脈が早まって、金縛りにでも遭ったみたいに身体が固まってしまった。
1歩、また1歩と長い脚で歩く彼。
そんな彼から視線を逸らせずいるのに……。
ん?………あれ??
何故か、視線が合わない気がする。
すぐ目の前まで来た彼を見上げようとした―――――その次の瞬間!!
彼は私の横を表情1つ変えずに通り過ぎた。
そして………。
「相澤さん」
「えっ?あっ、はい」
「これ、皆川さんから預かって来ました」
「あっ………すみません。有難うございます」
フリーズしている私の後ろで、会話している。
………彼と志帆ちゃんが。
何だ、そうだよね。
私ってば、自意識過剰!!
まさか、私に会いに来る筈ないもんね……彼が。
連絡だってくれないような人なのに。
今さっき、メールをやり取りしたから……つい、勘違いしてしまった。
ここは会社。
ううん、例え会社じゃなくても、彼は私なんて眼中に無い。
所詮、たまたま目の前にいた“いいカモ”状態の女が私だったって事だ。
フフッ、馬鹿みたい私。
1人勝手に思い込んでた。
私は仕事用に切り替え、いつもの『早坂小町』で仕事を始めた。