How much?!


「お待たせ致しました、小町スペシャルでございます」


ちょっとしたジョークのつもりで、ウェイトレス風を装ってテーブルにカップを置いた。

そして、自分の分のカップを手にしたままソファに腰を下ろす。


彼は珈琲の香りを愉しんでから、カップに口を付けた。


不味くないとは思うけど、人それぞれ好みは違う。

志帆ちゃんは絶品だと褒めてくれるけど、必ずしも彼の口に合うとは限らない。

大口を叩いた手前、彼の反応が気になって仕方ない。


緊張を掻き消すように湯気に息を吐くと。


「ん、旨いな」

「へ?」

「7年は、無駄じゃ無かったって事だ」


褒める時も厭味を含ませないと言葉に出来ない訳?

ホント、素直じゃな無いヤツ!!


「そりゃ、どうも!」


売り言葉に買い言葉になりそうで……寸での所でグッと堪えた。

これは、さっきの夜景のお礼だからね?

今日ばかりは大目に見てやる!!


『深夜に珈琲ってどうなの?』と、全く関係無い事を考えていると。


「なぁ、今日泊まってくか?」

「……………え?………今、何て?」

「送ってくの、面倒臭くなった」

「はっ?」

「俺は気にしないから、泊まってけ」

「……………いやいや、私は気にしますから!」


何考えてんの?……この人。

送ってくのが面倒?……意味わかんない!!

冗談じゃないッ!!

予測不可能な男と、一晩一緒に居られるかってのッ!!


タクシーでも拾って自力で帰るわよ!

そう考えた私は、カップをテーブルに置いてスッと立ち上がった。

―――――次の瞬間。


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