How much?!
次第にますます深くなるキスに、甘い痺れが身体を侵してゆく。
熱い吐息と共に息苦しいほどの彼の重みと。
攻め上がる彼の指先に、自然と溢れ出す温かい雫。
「ッ?!…………おっ、おい」
彼へ抗う事を放棄した私の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。
『初めて』への恐怖?
嫌だと抵抗しながらも甘い刺激に流されてしまった事への羞恥?
ううん、違う。
そんなんじゃない。
女の子なら誰でも夢みるような……淡い期待。
姉のように、いつかは大好きな人と出逢い。
そして、心から愛しいと思える人と結ばれる……。
そんな淡い期待を胸に今日まで必死に守って来た。
私と同じように恋に奥手の姉が『初めて』の人と結ばれ、そして倖せに暮らしている。
そんな奇跡のような事が現実にあるのだと知ってしまった私は、どうしてもその淡い期待を捨てられずにいた。
だから7年前のあの日を境に、少なからず近寄ってくる男性を厳しいレンズで見定め、決して甘い顔を見せたりして来なかった。
大事に大事にとっておきたかった。
いつかは現れる……運命の人の為に。
けれど、あっという間に月日は流れ、気付けば30歳へのカウントが既に始まっている。
志帆ちゃんには『綺麗』だとか『カッコイイ』とか言われるけど。
そんなものお世辞だって解ってる。
世間一般的に、既に『華盛り』を過ぎてしまっている事くらい。
きっと、彼にも私はそんな風に映って見えるのだろう。
『早坂小町』でなく、『女・29歳』というくらいに。