雨玉
彼には同じ歳の恋人がいる。


それは、出会ったときから知っているし、今も変わらないことも知っている。


ふたりの間に亀裂があることも知っているし、それでもふたりがお互いを想いあっていることも理解しているつもりだ。


「……ゆうくん…」


気が付けば、わたしは初めて事中に彼の名前を呼んでいた。


彼は驚いたようにピタッと動きを止めて、冷たい目でわたしを見下ろした。


とても悲しそうな目をしていた。


裏切られた子猫のような目にも見えた。


「やめる?」


彼のその言葉に、小さく首を振る。


「でも、」


尚食い下がる彼にわたしは「やめないで………」声にならない声を出した。


彼は「ごめんね」そう呟いてまた動き出した。
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