華麗なる安部里奈
坂下さんが病院に到着した時には、律子さんは既に息を引き取っていた。私は廊下で坂下さんから律子さんのピンク色のシュシュを受け取る。

私は手にしたピンク色のシュシュをギュッと握り締めた。シュシュには私の目から零れ落ちた涙が何滴も染み込んでいった。

始めに、正十郎とテッちゃんとアッちゃんが、律子さんと"再会"した。まだ霊安室には運ばず、とりあえず個室の病室に入るそうだ。病室の中から、すすり泣くような声が聞こえてくる。



その泣いている声を聞いた私も病室の前の廊下で涙を流し始める。私が母の顔を見上げると、母も大粒の涙を流しているのが分かった。父はハンカチを眼に当てたまま、トイレのほうに駆け込んでいった。

そういえば、もうすぐアッちゃんの誕生日なのに……。

結局、壊れたジンジンジャーの剣の代わりのおもちゃも、律子さんはアッちゃんに買ってあげる事ができなかった。



律子さん、あの時言葉ではああ言っていたけど、アッちゃんの事をとても心配そうな顔で見ていたし、きっと何か買ってあげたいと思っていたはずなのに……。

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