華麗なる安部里奈
それからしばらくして、私と父と母も部屋に案内される。

私は数日ぶりに律子さんに会った。風邪をひいた時にお見舞いに来てくれた時以来だった。あの時、とっても嬉しそうに正十郎との出会いやプロポーズの時の事を話してくれたのに、今はもう律子さんは何も話してくれない。

私は、看護師さんに許可を取り、正十郎にも「着けてあげてください」と言われたので、律子さんの髪にシュシュを着けてあげた。

律子さんの髪は相変わらず、とっても長くて綺麗で美しい。もしかしたら、その髪に直接に手を触れたのはこの時が最初で最後かもしれない。



私がもっと早くこのピンク色のシュシュを付けてあげていれば、律子ママも治ったかもしれないのに……。

「律子がお守り代わりにしていたシュシュですね。お嬢様が持っていらっしゃったんですか」

「ごめんね、正十郎……。この前風邪を引いた時に借りてたの。私が律子さんのお守りを借りてしまったからこんな事に……」

私は手で涙を拭いながら言った。


「いえいえ。むしろ、それが律子のお守りだという話をお嬢様が知ってくれていて嬉しいです。律子が話をしたんですね?」

「うん……」

「きっと女性同士だからそういう話もできたんでしょう。律子の思い出を、他の誰かが知ってくれている。今はそれが救いです」

正十郎は静かにそう話してくれた。

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