華麗なる安部里奈
私はゆっくりと父の部屋に足を踏み入れる。



父は仕事から帰って間もないらしく、白いワイシャツを着て、赤いネクタイを付けたままだった。こちらに背を向けていた父は、机の前の黒い革張りの椅子をクルッと回転させてこちらを振り返った。

「お父様、お帰りなさい」

「ただいま、里奈」


私は父に小さく手招きをされ、それに従って机の横にあるテーブルの前のソファにチョコンと腰を下ろす。



ここまではいつもと同じ優しい父の笑顔が見られた。ところが、それから少し深刻そうな表情を浮かべると、父は私の正面にあるソファに座り直して、私にこう尋ねた。

「里奈、今日おうちで何があったのか話してごらん」

怒っているという感じではなかったが、そこに優しい笑顔はなく、正直に話したら怒られるであろうという恐怖が私にはあった。



「べ、べつに何もないよ……」

私は俯いたまま、父の部屋の赤い絨毯を見ながら答えた。



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