華麗なる安部里奈
私は律子さんと一緒に台所のまな板の前に立った。私ではシンクの高さに届かないので、木製の小さな台を借り、その上に乗って、まな板を前にする。



始めに律子さんが人参や玉ねぎを包丁で切って見せてくれた。とても手際がよく、まるでとても簡単な作業のように見える。

「はい、それじゃお嬢様には怪我をしないように、こっちの包丁でお願いしますね」

律子さんは子供用の刃先の丸い小さな包丁を私に渡してくれた。



私は普段の生活において"危ないから"という理由で、刃物の類を手に持たせてもらった事はなく、包丁の扱い方すらよく分からなかった。

そんな私は包丁を手にしたまま、しばらく頭の中で、律子さんが今切っていた姿を思い浮かべ、「ふぅーっ」と一つため息をついた。

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