華麗なる安部里奈
「できるかな……」

私は不安ながらも、包丁を動かし始める。右手はやや震え、人参を押さえる左手もプルプルしている。

「ゆっくりで大丈夫ですよ。力を抜いて包丁をゆっくり動かせば良いのよ」

私は言われた通り、力を入れないようにして包丁をゆっくりと動かした。

カタン。

人参が切れ、まな板に包丁が当たる。5センチくらいの分厚さで、人参が切れた。



「ふふっ。そうそう。うまく切れましたね、お嬢様」

切れた人参は分厚いし、曲がっているし、お世辞にも上手く切れたとは言えないと思うのだが、律子さんはそう言って褒めてくれた。

「今みたいにして切っていけば良いんですよ。簡単でしょ?」

律子さんが「簡単」というと、本当に簡単に思えるから不思議だ。私は、また人参に左手を沿え、包丁を動かし始めた。



律子さんは少し心配そうにして、私の包丁捌きを横から覗き込む。

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