年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「BAR SHERRY」と書かれた扉を開くと、カウンターの中のマスターが私に気付いてにっと笑った。
長めの髪はボサボサなのか無造作なのか、無精ひげに包まれたその顔立ちはよく見れば整っていて、ひげを剃れば五歳は若返りそうだ。年齢不詳で、訊いてもいつも教えてくれない。
指定席のカウンターの左端から二番目に陣取ると、おしぼりとナッツの盛り合わせに続いて、いつも通りにジントニックが差し出される。
「どうしたの、今日は。えらく浮かない顔してるね」
「ええ、最悪ですよ。振られました」
ほぼ一気飲みに近い感じでぐいっと飲み干すと、驚いたようなマスターと目があった。
いつも一定の表情を崩さないこの人にしては珍しい。
「振られた、って、祥裄に?」
「他に誰がいます?」
ここはもともと祥裄に連れてこられた店だった。私の家のほうが近いこともあって、今ではもっぱら私の行きつけになっているけど。