年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「どうぞ。古くて狭いですけど」
通された部屋は典型的なワンルームだった。
入ってすぐに両側に扉、これはおそらくトイレとバスルームで、廊下に洗濯機、ドアを隔ててミニキッチンがついた居住空間。ベッドとテレビ、コタツがあって、棚には美容関係の雑誌とかCDとかが乱雑に重なっていた。
首だけのマネキンがこっちを向いて置いてあって、目が合って思わずびくっとした私を見て、大輔くんが笑う。
この首、真夜中に暗闇の中で見たら、絶対怖い。
白やアイボリーにファブリックでダークグレーを差していて、男の子っぽいシンプルで居心地のいい空間だった。元々物が少ないようで、きれいに片付いている。
コタツの横にちょこんと座ると、大輔くんがお茶を出してくれた。
「いい部屋だね。無駄なものがない感じ」
「インテリアが専門の人に見られると緊張しますね」
コンビニの袋からお弁当を取り出して並べながら、大輔くんが私の斜め前に座った。
「そうだ、報告したいことがあったんだ。私、今度店舗の内装に携わることになって」
その私の報告を聞いて、大輔くんの顔に笑顔が浮かんだ。
「本当ですか? いつかやりたい、って言ってた仕事ですよね? すごいじゃないですか」
キラキラした目で自分のことのように喜んでくれる大輔くんを見て、予想通りの反応に思わず顔がほころんだ。
「最近頑張ってるから、って褒められたんだ。大輔くんのおかげだよ」
私の言葉に、きょとん、とする。
「俺、なにもしてないですよね?」
「髪切ってもらってから調子いいの。言ったじゃん、憑き物が落ちたみたいだって」
本当は彼の頑張る姿に元気をもらったからだ。
でもそれを伝えるのがなんだか照れくさくて、冗談めいた言葉でごまかした。そんな私の言葉にも、彼は素直に嬉しそうにしてくれた。
「俺が切った髪型を喜んでもらえる、って一番嬉しいです。ありがとうございます」
素直な言葉に私も癒される。彼のこの素直さは、美容師さんっていう仕事にとっても大きな武器になるんだろう。