年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「すみません、うるさくて。あの人いつもああなんで」
大輔くんが申し訳なさそうに顔をしかめて、私と祥裄に謝った。
「……同じ店の、美容師さんたち?」
「そうです。本店のメンバーなんです。別のとこで飲み会だったんですけど、咲さんがここに来たいって駄々こねたので移動してきました」
「じゃああの子がここの常連なんだ。でも、大輔くんもマスターと仲良さそうだね」
「俺は客じゃないですよ。家が近いから、酔い潰れた咲さんにいつも呼び出されるんです。だからただのお迎え係……」
「大輔ー、酒を注げー」
話の途中でまた後ろからその子が叫ぶ。
もー、としかめた顔をますます渋くして、大輔くんがそちらを睨む。
「呼んでるよ、戻りなよ」
私がそう促すと、大輔くんはまたこちらを振り向いて、少し名残惜しそうな顔をする。
「若い子同士って楽しそうだね。私たちはもう帰るから、ごゆっくり」
そう言って私がにっこり笑うと、大輔くんは一瞬祥裄を見てから、私に向かって笑いかけて、じゃあ、と席に戻って行った。
「帰ろ、祥裄。マスター、ごちそうさま」
笑顔のまま祥裄に声をかけて、マスターに手を振る。
そのまま後ろを向いて、大輔くんたちの方を見ないように、ただまっすぐ前だけを見て歩いた。ドアを開けると冷たい空気に包まれて、ドアを閉めると中の賑やかな声が聞こえなくなって、それでようやく、肩に入っていた力が抜けた。