年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「予算もこちらの提示した範囲で収まりましたし。もう特に直したいところはありません」
「では、これで決定させてもらいますね」
仕様や品番を細かくまとめた見積書を差し出すと、浩二さんがはい、と穏やかに頷いた。
「これで大体、形が見えて来ました。出来上がるのが楽しみです」
奥さんと二人、顔を見合わせて微笑みあっているのを見ると、こちらもつられて笑顔になる。
なにもない空間から、一つの建物が浮かび上がっていく、その過程はいつも心が踊る。こうやってスケッチで見た雰囲気と、実際の空間で見る雰囲気はやっぱり違って、出来上がって全ての家具をセッティングするまでは、楽しみでもあり不安でもある。
「まだまだ決めなければいけないことはたくさんあるんですけどね。とりあえずは一段落です。私たちも、もうひと踏ん張り、気合を入れていきますよ」
届け出をしたり仕入れをしたり、建物以外のことは私にはわからないけれど、お店をオープンするっていうのは大変な作業なんだろう。それでも楽しそうに頑張っているお二人を見ると、自分の城を持てる、というのが羨ましくも思える。
「私との打ち合わせも、本日で一区切りです。ありがとうございました」
立ち上がったお二人に深々と頭を下げると、お二人も丁寧に、礼を返してくれた。
「こちらこそ、お世話になりました。片桐さんに担当していただいて良かったです」
にこにこと微笑む、その顔に不安はなさそうで、お帰りになる後ろ姿を玄関から見送りながら、私もほっと、肩の力を抜いた。
デスクに戻ると平山さんが近づいてきて、缶コーヒーを机の上に置いてくれる。
「お疲れさん。どうだ、うまくいったか?」
「はい。気に入っていただけたようで、安心しました」
気が抜けたように笑う私の肩をぽん、と叩いて、平山さんも自分のデスクに戻っていく。