年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「本当にこれでいいのかなあ……」
知らず知らずため息をつく私に、スズキのグリエにナイフを入れながら瑞香が言った。
「もしかしてまだわんこに未練があるんじゃないでしょうね?」
「……」
「バッカじゃないの、あんなハイスペック男捕まえといて。祥裄くんの前で絶対そんな顔しちゃダメよ、また逃げられたらどうすんの?」
「また逃げられたらその時はその時かなあ」
別に逃げられてもいいかもなあ、なんてぼんやり考える私に、盛大に呆れて見せる。
「誰もが一回は通る道よ、そんなの。マリッジブルーってやつよ」
「瑞香はあった?」
「そりゃもちろん。本当にこいつでいいのかなあ、なんて脳みそが沸騰するくらい考えたわよ。でもね、籍を入れて一緒に暮らしちゃったら、もうそんなの悩んでるのもバカらしくなったわ。人間って慣れるもんよね」
過去を思い返すように遠い目をした瑞香が、美味しそうにくいっと白ワインを煽った。私も頼んじゃおうかな、ワイン……。
「恋人だろうが夫婦だろうが所詮は他人よ。どっかしら合わないとこがあって当たり前。
しかもね、恋愛感情なんてそう長くは続かないのよ。前はあんなに好きだったのに、あの時はどこがよかったのかしら、なんて思う時が絶対くるわ」
私だって別れる前は祥裄のこと、好きだったはずだもんなあ。振られてあんなに泣いたのはまだ半年前のことなのに。